
6月にツアーをやる。大阪と札幌と東京。今その準備をしている。
今回はちょっと挑戦していることがあって、普段あんまり音楽のライブに行かない人とも、一緒にこの体験を共有したいと思っている。だから、カフェとか美容室とかクラフトビール屋さんとか、コンセプトが近くて楽しんでくれそうな人がいる場所に、チラシを置かせてもらっている。本の栞になる招待状、というデザインにした。
で、そのチラシ(招待状)を作りながら、「普段ライブに来ない人に、会場で何が行われているのかをどう伝えるか」をずっと考えていた。クラブとか、ポップスとか、好きな有名人のコンサートやフェスなら馴染みのある人も多い。でもジャズとか、ヒップホップとか、即興演奏となると、「え、歌ないの?なんで?」ってなる人もけっこういると思う。面白そうだなと思いつつ、「敷居が高いんじゃないか」「知識がないと楽しめないかも」「時間とお金を使ってつまらなかったら気まずいな」と、心のどこかで身構える。その気持ちはすごくわかる。それをどう言葉にするか考えていたら、なぜか自分が音楽をやってる理由みたいなところまで掘ることになった。
僕は美術館によく行く。しかし正直に言うと、僕は美術が全然わからない。
何がすごいのかもわからないし、意味も価値もわからない。それでも美術館に行くのは好きだ。過去の人たちの生活とか、価値観とか、表現の仕方に触れるだけで、なんか得るものがある気がする。ピカソやモネの時代背景も、筆のタッチも、色の使い方がどれだけすごいのかも、僕は全然知らない。それでも、歴史を積み重ねた本物に触れるだけで、すぐには理解できなくても、将来の自分に何かしらいい影響があると信じている。
ライブも、たぶん同じだ。
アフリカのリズムがアメリカに渡って、人種差別や貧困に苦しむ生活の心の拠り所としてジャズが生まれて、ゴスペルとくっついて、ヒップホップと混ざって……みたいな歴史を、別に知らなくてもいい。僕がモネの筆のタッチを知らなくても美術館で何かを受け取れるのと同じで、その場に来て、その場で感じるだけでいい。
ミュージシャン——少なくとも僕と僕の周りの人たち——の目標は、たぶん「歴史のバトンを渡すこと」だと思っている。来てくれた人には、今までの文化の歴史をなんとなく感じて、それをミュージシャンが今の価値観でどう表現しているのか。それをリアルタイムに受け取ってもらう。事前の知識は一切いらない。ただ来て、その場を体験すること。それだけだ。
そしてこの考えは一人で練習してる時にも役に立ちそうだ。
一人で練習してると、これに意味があるのかわからなくなる瞬間がある。上手い人は山ほどいるし、こんなことやって何になるんだろう、って思う日もある。地味な基礎練習とか、誰にも聞かせない一人の試行錯誤とか。正直すぐに結果が出るわけでもない。
でも「歴史のバトンを渡す」っていう視点で見ると、ちょっと違って見える。今やってる練習も、積み重ねられてきたバトンを受け取って、自分の手で次に誰かに渡すための準備なんだとしたら。パッと見、地味で、意味があるのかわからなくても、「歴史的につながっている何かよくわからない壮大なもの」の一部になれる気がする。
今回、ライブに馴染みのない人にも来てもらうために、こんなことを伝えている。
予習も知識もいらない。
楽しめなくても大丈夫。
理解できなくても大丈夫。
服装も作法も、特別なルールはない。
これはツアーに来てくれる人へのメッセージとして書いたんだけど、書いてるうちに、作る側・練習する側の自分にも同じことが言えるな、と思った。
今すぐ理解できなくてもいい。今すぐ手応えがなくてもいい。普段と違う刺激に触れること自体に意味があって、続けて触れていれば、1年後、5年後、10年後の自分に、少しでもプラスになる何かが残る。少なくとも僕はそう信じてやってるし、そう考えると練習も続けやすいはずだ。
今回のツアー、ミュージシャンもそうでない人も一緒に体験を共有できたら嬉しいと思う。
日本ツアー2026 Off Sync, Here
・6月8日(月)大阪 BLUE YARD:ピアノソロ
・6月12日(金)札幌 D-Bop Jazz Club:ピアノソロ
・6月15日(月)東京 COTTON CLUB:フルバンド